::: プロデューサー日記 :::
山下 治城
山下 治城
Haruki Yamashita
チーフ・プロデューサー

■出身地
鳥取県 倉吉市

■趣味
舞台を見る。映画(ドキュメンタリーからアニメーションまで)。読書。

■座右の銘
大局観とディテイル

■尊敬する人
宮崎駿

■好きな食べ物
カレー・ラーメン・寿司・蕎麦

■プレイスポット
劇場&映画館

■チャームポイント
ものを見る、まなざし。

■一番大切なものは?
自分に正直であること。

■休日何してる?
舞台鑑賞・映画鑑賞・料理

■好きなCMは?その理由は?
サントリーローヤル「ランボー」篇 学生時代に見た、このCMがきっかけで、僕はこの業界に入った。

■どんなPrになりたい?
矜持をもった人間として生きていきたい。

【代表作品】
◎エステー化学:消臭力
◎三井住友海上火災:企業
◎総務省:参議院選挙
◎レダ:プチシルマ シリーズ




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2008/05/09 - 07:57

「佐藤可士和の超整理術」佐藤可士和(@日本経済新聞社) 仕事の周辺


考え方をまとめる、考えや思いやビジョンを引き出す際に
整理術という概念で物事をまとめた初めての著書ではないだろうか?
その新しい視点でちょっとした発見をやり続けているのが
佐藤可士和という人なんだ、と思った。
でも、そのちょっとしたことを皆が考えられないからこそ、
佐藤さんへ多くのクライアントが仕事を依頼しているという
事実があるのだろう。そのことが彼の凄さを物語っている。

先日ある公演で佐藤さんが「ワークデザイン」ということを語っていらして、
とっても印象的なお話だったことを思い出す。
佐藤さんはいつでもどこでも同じ事を
言い続けているのだなということがわかった。
「ワークデザイン」というのは、仕事の仕方や環境作りの「整理術」。

本書の中でも佐藤さんはたくさんの面白いことや発見されたことを語っている。
何ていうことはないことだけに凄い!
コロンブスの卵的な話が具体的な事例とともに語られる。

一番印象に残ったのは、僕は問題解決をする専門家です。
コミュニケーションを専門とする問題解決のスペシャリストである。
問題は全てクライアントの中にある、
そのことを対話などを通じて引き出すことで
ほぼ全ての問題は解決する、と佐藤さんは語る。
なるほどなああ!と納得。
「問題は全てあなたのココロの中にある。」
というような哲学的な会話と同じ事である。

広告会社の方々と話していると、
彼らの仕事は経営コンサルタント業務に限りなく近いなあと
日頃思っていただけに、
佐藤さんの話はそこにつながり説得力をもつ。

箭内さんが言う「クリエイティブ合気道」というのも同じことだろう。

「本質をきっちり捉えて効果的に表すこと。」

これが全てを語っている。

佐藤さんは続けてこのように述べている。

「大切なのは自己表現じゃなく、どう人々に伝えるか。
つまり、デザインやビジュアルの力を使って、
本当に伝えたいことを相手に届けることではじめて、
広告は機能するのだと自覚したのです。」

それをやり続けるために整理術は必要ですよ
というのが本書の大きな考え方である。

「整理術」は三段階に分けて語られる。
「空間の整理術」「情報の整理術」「思考の整理術」である。
どんどん抽象的になっていくのだが
一貫した思想で語られているので揺るがない。

「思考の整理術」の中で「答えは相手の中にある、
と同時に自分自身の中にもある」という言葉はまさに至言。

 その思想は、本書のまえがきの書き出しに通じる。

「楽しく、早く、いい仕事をして、人に喜んでもらって、
自分もハッピーになりたい」と。
この言葉が、佐藤可士和の全てなのかも知れない。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/04/18 - 01:22

「決断の本質」マイケル・A・ロベルト(@英治出版) 個人の周辺



新聞の記事に「決めること」についての認知科学の話が載っていた。
人間は、まず決定する。
そして、何故それを決定したのかという理屈を後でつけていく。
その決定に関しては第0感とでもいうべき、
脳の認知科学のメカニズムが働いているのだと書かれてあった。
なるほどなあと思った。

自分でもまず決めてから考えるということをやることがある。
ネットで決断に関しての認知科学の本が
何か出ていないかと調べて見た。
そのときに偶然に見つけたのが本書だった。
新聞で語られていた人間が通常行う意思決定スタイルとは全く違う、
科学的なシステムに基づいた意思決定の方法を決めるやり方について
書かれた本があるということ自体に興味を持ってAMAZONで購入した。
本書の英語タイトルは、

”Why great leaders don’t take yes for an answer
– management for conflict and consensus”とある。

ここに本書で書かれている意志決定のプロセスの本質が記されている。
また、表紙の下に、意思決定のプロセスとして4つの要素が書かれている。
4Cと本書では語る。

コンポジション(メンバー構成)、
コンテキスト(背景の設定)、
コミュニケーション、
コントロール

の4つである。
この構成要素をきちんと選び出し、
選定メンバーに分け隔てなく、隠し事なく意思決定のプロセスを
順を追って進めていく。
その際にリーダーの主導によって、対立意見や少数意見を掬い上げ、
それらの意見も俎上に乗せ、議論をする。
リーダーは自制心をもって、メンバーたちの意見を聞く事が、
まちがいのない意思決定を行う方法であると説いている。

ここで「自制心」という言葉が良くわからないのだが、
本書では「自制心というのは、恐れを感じずに
他人の意見を受け容れる能力だ」と書かれている。

そこで感じたのは、その場合、
自分の意見というものはどこから生まれて来るのか?とも思った。
それは必要ないのかもしれない。
自己の発意からくる意思決定というのは、
何かを作り始めるためのエネルギーである
「情熱」なくしては出来ないのかもしれないが、
ここで語られているのはトップリーダーが
マネージメントしていくためにいかに適切な決定を
下していくための方法だと考えると納得がいった。

その意思決定には大きなリスクが伴う。
ケネディ大統領時代の二つのエピソードが秀逸であった。
ひとつは「ビッグス湾事件」(1961年4月)
このときにケネディは決定のプロセスを用意しないままことにあたった。
結果、少数意見や反対意見を掬うことなく
ケネディは亡命兵士たちを敵国(キューバ)に送り込むことになった。
そして、作戦は失敗し、1400人近くの亡命兵士たちは命を失った。
ケネディはこの意思決定に対して反省した。
そして意思決定のプロセスを作ることにしたのである。
1962年のキューバ危機の際にそれが生かされた。
ケネディの米国の最大の危機を乗り越える事が出来た。

それでも苦渋の選択をしなければならないことはたくさんあるだろう。
しかし、その苦渋の選択は間違った選択ではないだろうということは、
この意思決定のプロセスを乗り越えてきたということから
納得できるものになるということである。
その具体的な方法が本書では微に入り細にいり語られる。

偉大なリーダーの「決断の本質」とは、
その決断の「内容」ではない。
はじめから自分の考えを押しとおすのではなく、
同僚や専門家から多様な意見を引き出すための「プロセス」を準備し、
さまざまな技術・手法を用いながら、
最後の決断に至るまでの過程を正しく運営することなのだ。

と、前書きに本書で語られる「全て」が書かれていたのだった。
これを書くまで気づかなかった僕は、意思決定者として不適格かも?
「自制心」などのカケラもない。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/04/08 - 02:02

「君に届け」椎名軽穂(@集英社) 個人の周辺

藤本由香里(元、筑摩書房編集者、現、明治大学准教授・マンガ研究家)
が書いた「朝日新聞」のコラムを読んだ。
何気ない話なのに、思わず涙がこぼれてしまう。
いったいこれは何だろう?そんな漫画です、と。
それを読んで、会社でその話をしたら
KTさんのロッカーから「君に届け」が出てきた。
聞いてみると、デスクのKNさんがもっているものを借りているとのこと。
早速、読み始めて、藤本由香里の文章に納得。
純粋さを極めていくと、このようなココロに染み入るものになるのか?
この純粋さはどこにから来るのか?
「別冊マーガレット」連載ということから、
若い読者(中学生や高校生)がターゲットだけに
純粋無垢なものを描いていくという手法は現実的である。
(「レディコミ」じゃないからね。)

人間関係をこのように構築できる主人公は凄いと思った。
そして読者の僕たちは彼女の成長の一挙一動を追いかける。
その中から「ともだち」を作ること「恋愛」を知ることなどが描かれる。
主人公の黒沼爽子は、学校のみんなから無視され白い眼で見られていた。
彼女のあだ名は「貞子」である。
あの「リング」や「らせん」のホラーに出てくる髪の毛の長いあの女性である。
しかし、彼女の本質はそうではないということを、
ちゃーんとわかる男の子や友人が現れる。

黒沼爽子は、表面的なだけの付き合いを決してしない。
勇気を持って面と向かって相手と向き合う。
そのリスクを全てしょって人に向き合う。
だからココロから信頼できる友に出会ったり、
ココロの底から好きだと思える相手に出会えるのだろう。
その「純粋さ」に頭が下がる思いである。
何が本当に大切な事なのか、ということを黒沼爽子は教えてくれる。
その向き合い方が不器用で一生懸命だからなおさら、
彼女のことを見ていていとおしくなる。
そんなキャラクターを描きながら本当の友人と
交流を深めながら彼女たちは生きるということの意味を見つけていくのだろう。
そこがキチント描かれているからこそ、
この漫画は多くの読者やファンをつかんでいるのだろう。
46歳のおじさんが読んでも十分に面白い、
というか、教えられる漫画がここにある。

この手法が他のコンテンツ制作にも応用できないかと思った。
底抜けにハッピーな世界はどこにあるのだろう?
それはどこから来るのだろう。
「ハッピーじゃないのにハッピーな世界は描けません」と言って
自らの命を経った、あるCMディレクターのことを思い出した。

その対極にあるものから、
新たな価値が生まれてくるのだと信じたい。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/03/28 - 00:03

「ウェブ時代5つの定理」梅田望夫(@文芸春秋) 会社の周辺


梅田望夫の名作「ウェブ進化論」ちくま新書シリーズとは
一線を画した企画モノの単行本。
ECDである、Nさんがいち早く読まれており、
山下君も早く読んだ方がいいといわれて、ようやく読了。
最初、本屋さんになかなかなくて。
赤坂TBS前の「文教堂」で見つけて購入。
一応、第一刷なので初版をこの書店では
多く入荷していたのかも知れない。
これは梅田望夫が読んだ
多くの、米国を中心としたヴィジョナリーの名言集とでもいうもの。
ITを中心とした各界の方の言葉を抄録してある。
日本語訳とともに英語の原文が載せてある。
日本語と対照しながら読むと
いい単語などの学習になる。
こんなことをコツコツと続けていくしか
語学を習得する方法はないのかも知れない。

その5つの定理とは
1、アントレプレナーシップ、2、チーム力、3、技術者の眼、
4、グーグリネス、5、大人の流儀、という5つからなる。
詳しくは本書をお読みになればいいのだが、
その中に書かれている数々の名言・至言が「はっと」させられる。

中でも印象に残ったのが、

Aクラスの人はAクラスの人と一緒に仕事をしたがる
Bクラスの人は、Cクラスの人を採用したがる。

というもの、改めて言葉にされると、なるほどなーっと思う。

また、

トップレベルのチームはマネジメント重視でなく、
行動重視でなくては駄目だ。

という言葉も興味深いものがある。
「マネジメント」という言葉には自分ではあまり手を動かさず
人に何かをやらせるという意味があるらしい。
「行動重視」ということは自分で手を動かすこと。
この現場感覚がなくなるとチームは上手く機能しなくなる
ということを、自分の仕事に置き換えながら
考えることが出来た。

そして
グーグルが株式公開に向けて、
投資家に宛てて書いた手紙には驚いた!
二人で始めた経営理念をとこととん守りとおすためのことが
ここには書かれている。
短期的な利益を追い求めず、長期的な視野に立って経営理念を守り通すこと。
そしてそのために果敢にリスクにチャレンジし続けること。
その創業の精神を守り続けるため
創業の二人は経営から追い出されることはなく、
その二人の株は十倍の議決権を持つ。
というような手紙だったそうである。
長くグーグルの株を持っている投資家の方には
確実にリターンがありますよということである。

アップルを創業したスティーブ・ジョブスが
自分で作った会社から追われたことを思い出す。
結局ジョブスはアップルに戻ってきて、
驚異のV字回復を成し遂げる。
それもプロダクトと思想が一体となった回復を!
最後に、梅田はジョブスの2005年行われた
スタンフォード大学の講演のことについて語る。

「愛するものを全うする」ということについてジョブスが熱く語っている。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/02/28 - 01:24

「ボーダレス2008」JAAAクリエイティブ研究会第58回(@ヤクルトホール) 仕事の周辺


佐藤可士和×伊藤直樹×高松聡

この3名のクリエーターが
自分自身のことについて語り、
その後、彼らと司会の笠原さんの4人で座談会をする。
というスタイルでこの研究会は行われた。
最近、この種のイベントはいつも超満員である。
当日券はございません。と受付に貼ってあった。
以前は、ここまで一杯になることはなかったように記憶している。
こういった広告に関する研究会が混み始めたのは
本当にここ数年の出来事だろう。
それは、何故か?
教育ということに対して積極的になってきているという姿勢の表れか?
それとも現在の広告業界に対する危機感が人を集めるのか?
業界の転換期なのか?
それとも主催者のチケットを売る努力の賜物か?

 前の仕事が伸びてしまい、途中からの参加となる。
伊藤直樹さんが自分の仕事について語っていらした。
ウォークマンのキャンペーンなど興味深かった。
そして、高松聡さん。
高松さんのお話は以前、原宿でイベントがあったときに伺ったことがあり、
「GOO」や「スカパのパブリックビューイング」の話は鮮明に覚えていた。
今回、日清のカップヌードルのキャンペーンに対する面白い話がたくさん聴けた。
今回のまさにテーマである「BORDERLESS」のキャンペーンと
今行われている「FREEDOM」のキャンペーンについて、いろいろと伺う。

三人の全てに言える事は、
メディアや広告という概念にとらわれない中で
自由に発想し仕事をされていること。

それはその後の座談会の話にもつながるのだが、
クライアントの問題点を深く理解し共有し、
その課題を解決するためにはどのようにするのが一番いいのか
を考える仕事なんだなあと思った。
そのためにはクライアントの話を良く聞き問題点を見い出し、
その問題点をまずクライアントと深いレベルで共有することが大切。
そのために「対話」を繰り返し、
深いコミュニケーションの関係を作っていくこと。
その能力の優れた人たちが
ヒーローになれる世界なんではないだろうかと改めて思った。
佐藤可士和さんは、答えはクライアントの中にある、
対話を重ねていくと自ずとその答えが見つかる。
その答えをカタチにして提示しているだけに過ぎない。
とさえ、おっしゃる。
さらに、そのためには、そのプロジェクトのリーダーと
きちんと対話することが必要である、と。至言である。
プロジェクトリーダーは企業のトップかもしれないし、
宣伝部長かもしれない。
その人と直接向き合って話すことによって
目的に向かっての解決策は見えてくる。
まるで経営コンサルティングである。
佐藤さんはそれを「デザイン」という言葉に置き換える。

座談会で面白かったのは仕事のやり方に関してであった。
佐藤さんは仕事の仕方を「ワークデザイン」という言葉で語る。
ここの環境作りをきちんとやらないと大変な状況になる。
そんな状況に陥らないために、
プロジェクト毎にどのようなスタンスで仕事に取り組むかを決め、
必要とあれば外部から適切なスタッフを集めてくる。
なるほどなーっと思った。
「SAMURAI」の場合、佐藤さんと4人のデザイナー以外に
2名のマネージャーが居る。
そのマネージャーの存在はかなり大きいのではないかと思った。
所謂、マネジメントプロデューサーというようなものをイメージした。

佐藤さんも、伊藤さんもランニングを始められたそうである。
走ることによって何が見えてくるのだろうか?
身体を通じて脳の中から何か見えてくるのか?
佐藤さんは5時に起きてランニングをしているらしい。
村上春樹のことを思い出した。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/02/11 - 22:33

「深夜食堂」安倍夜郎(@小学館) 会社の周辺



 元同僚の安部さんが40歳過ぎて漫画家になった。
文化庁メディア芸術祭の漫画部門を受賞。
ビッグコミックの新人漫画賞受賞。
そのとき彼は、CMディレクターだった。

最初「山本耳かき店」というちょっと色っぽい大人の漫画をかいていた。
何ヶ月かに一度というペースでそれは続いていた。

そして、暫くお休みがあり、「深夜食堂」が始まった。

編集の方から「食」をテーマにしたものをかいて欲しいということから
この漫画が始まったらしい。
「食」は読者に受け容れられやすいそうである。
しかし、安部さんの描く「食」は、
「美味しんぼ」などのグルメの頂点を極めるというようなものと
対極にある。
B級グルメの世界での
庶民の幸せがそこに描かれている。
ささいな食のこだわりを丁寧に描いている。
その連載が月に二回連載されるようになった、
ときどき「ビッグコミックオリジナル」で読んでいたものがついに単行本になった。

おめでとうございます!
40歳過ぎて漫画家になった安部さんの
45歳にしての単行本1冊目が刊行されたことは感動的な出来事であった。

 「深夜食堂」は新宿のどこか?
24時から朝の7時ごろまで営業している。
わけありそうなおじさんが一人でやっている。
メニューはなく客と会話しながら出来るものが出される。

何が出来るのかは、聴いて見ないとわからない。
今は、その阿吽の呼吸みたいなものが忘れ去られてきている。
ここは、何となくこんなものが食べたいということも重要である。
でも、客がノーアイデアで来るときはさりげなく提案してくれる。
この主人のホスピタリティが凄い!

懐かしい食べ物がたくさん出てくる。
「赤いタコのウインナー炒め」「きのうのカレー」「ナポリタン」「ポテトサラダ」などなど。
そこに来るお客さんたちのエピソードが、そういった食事を通して、語られる。
それぞれの人生が悲哀に満ちていたり、
愛情に溢れていたりするところが顔を出す。
その人生は決して華やかなものではない。
そういった地味な出来事をきちんと描ける
大人の鑑賞に堪えうる40台の新人作家、
安部夜郎の単行本はしみじみとした慈愛に満ちている。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/02/11 - 01:56

「雨の翼」2007年日本(@ユナイテッドシネマ豊洲) 仕事の周辺



生演奏の映画。初めての経験。
無声映画の上映でピアノ伴奏付きのものがあるが、それとは全く違う。
演奏するのはKUMAMI。
この映画の成り立ち自体が、KUMAMI抜きには語れない。
音楽を主体にした映画を作れないだろうか?
とKUMAMIと彼の周辺のスタッフは考えていた。
それを実行に移したのが石田プロデューサー。
そして映像に定着したのが熊澤尚人監督。

ららぽーと豊洲は休日ということもあってものすごい人だった。
特に飲食店は行列が出来ていた。

豊洲のユナイッテッドシネマ1という劇場は
音楽の演奏が出来る映画館ということで有名である。
ここにグランドピアノが置かれている。
スクリーンの下手にそれはある。
KUMAMI登場!拍手の中、映画が始まる。
女子高校生の切ない片思いを描いた叙情的な作品。
同級生の野球部の男友達が絡む。
学校を中心にロケーションが行われている。
オープニング、いきなりピアノ演奏が始まる。
スクリーンでは役者がいきいきと動き回っている。

ここに何故、この音楽なのか?そして音楽の効果とは何か?
音楽は映画をどのようにしていく役割を持つのか?
ということなどを考える。
通常の映画なら、音楽も台詞も効果音もミックスされた状態で
スピーカーから流れてくる。
今回は、劇中の台詞や効果音とライブ演奏の音楽が違う。
そのことによって
観客は映画の中の音楽を強く意識させる構造になっている。
それは生演奏だから感じられるのである。
そして音圧なども含めて、映画の中での音楽の意味を考える。
いや、感じるのである。

ピアノの音色が叙情を誘う。
ああ、ピアノの音ってきれいだなあと思う。
そのための会場での事前準備は並大抵なものではないだろう。
雨の中で主演の藤井美菜が
手を拡げて踊るシーンが印象的である。
彼女はクラシックバレエをしていたのだろうか?
指先にまで踊る気持ちが込められている。

この叙情性は何だろう?と思った。
そう、岩井俊二監督の映画や新海誠のアニメーション作品にも似た、
「何か」がある。
ある時期に感じるだろう、小さいけど大切なこと。
そのことをいつまでも持ち続ける人たちには
確実に届くだろうメッセージがこの短編の中に隠れている。

KUMAMIの歌声が今も耳に残っている。
この日は、特別に(?)この映画の
その後をテーマにした曲をKUMAMIが披露してくれた。

今後、福岡、大阪、名古屋と巡回していくらしい。
生演奏の、あの感動は体験しないとわからない。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/02/10 - 02:49

「それは秘密です(東京版)」満劇(@ウッディシアター中目黒) 趣味の周辺。

満員劇場御礼座、通称「満劇」は、
大阪の会社員の方たちが中心となって活動している劇団である。
久しぶりの東京公演である。
以前、目黒のD&DEPARTMENTで行った公演から数年が経過している。
大阪公演も含めてだと年に1度くらいのペースで公演を行っている。
仕事をしながらもこのレベルの舞台を
やり続けている根性に頭の下がる思いである。
一昨年の12月の大阪公演は思い出深い傑作だった。
今回はこのときの舞台の再演と
新作が追加されたものである。

満劇はいくつかのショートドラマ(コント)が
オムニバス形式で上演される。
ここの劇団はこのようなスタイルが主流である。
出演者は2-3人。
こういったやり方が現実的なのだろう。
出演者と演出家が揃いやすいし、稽古をするのにもユニット毎に行える。
仕事をしながら、全員が揃って一ヶ月間、
稽古をやり続けるなどということは至難の業である。
大体1話20分から30分。
今回、6話分を一気に上演したので、
休憩5分を挟んで2時間45分の長丁場となった。

テーマはタイトルにもあるように「それは秘密です」。
何らかの秘密を抱えた者たちのショートストーリーである。
作・演出は、淀川フーヨーハイ(3話)、あべの金欠(2話)宮崎仁誠(1話)。

淀川フーヨーハイの脚本は、
中年男の哀愁が漂う感慨深い物語がベースにある。
年齢を重ねたものが直面するコトと、
彼らが捨てきれない煩悩をどうしようもないなあと思いながらも
愛情深いまなざしで見つめている。
それは、やわらかなペーソスに包まれ、
独特な間合いの演出も相まって、笑える現代的な舞台になっている。
少し、都会的で洒落ているのである。
ある知性が、
演出の奥ゆかしさを加速させている。
それを関西弁でやるのがいい。
関西弁でやる都会的な演劇はなかなかない。
ほとんどオンリーワンといっていいほどのポジションを確立している。

これは、ほんま、浪速のウッディアレンとちゃいますやろか?

あべの金欠はもっとベタである。
新作「眼鏡」は中年夫婦の思い出を、
「献血記念日」は親子の関係を描く。
松竹新喜劇のような人情話の系譜がここにある。
再演「献血記念日」は傑作である。
キャストの組み合わせもいい。
父親役のライス大が本当にいい味を出すようになった。
この年齢でこのような味のある役者はなかなか居ない。
何故か、井川比佐志を思い出す。
これくらいボケを出せる役者は貴重である。
この父親を突っ込む息子役の堂島サバ吉がいい。
彼の突っ込みの間合いは天性のものなのか?
その絶妙なタイミングが笑いを誘う。

演出をわかりやすくさせようというのは、
あべの金欠の狙いなのか?
音楽の挿入などが、ギャグなのか、
情緒的にするための方策なのかが分かりにくかった。
観客の想像力は
この大きさの小屋なら十分に委ねられる。

この日は、公演前に降りだした雨が、公演中にいつしか雪に変わり、
劇場の外に出てみると、数センチの積雪となっていた。
静かな雪の降る中目黒商店街だった。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/02/08 - 00:51

「新しい橋」城山羊の会(@駅前劇場) 趣味の周辺。


山内ケンジは変わった。
山内健司から山内ケンジへ演劇をするときの名前を変えた以上に変わった。
彼の中でどんな変化があったのだろうか?
あきらかに深化している。
人間の描き方がこれまで以上に深く、
その深遠にはどうしようもない現実が横たわっている。
その現実と向き合いながら人は生きていく。
歳を重ねるということは、それに向き合うことだと思う。

随分前に山内さんから
今度はベルイマンの「ある結婚の風景」みたいなものをやりたい
というメールが来ていた。
昨年亡くなった、ベルイマンの遺志を継ぐものがここにいる。
夫婦の関係の話。
数組の夫婦と夫婦だったものたちが登場する。

クラシックの美しい調べが幕間で効果的に使われる。

深浦加奈子が出色である。
やはり山内ケンジの舞台に彼女は欠かせない。
あるきっかけから深浦加奈子がアルバイトを始める。
その時のホテルの一室でのシーンから観客は釘付けになる。
少しだけ長いエピソードから一気に夫婦関係が変わり新しい関係に転換していく。
その理由は?
何故、夫婦関係の危機が始まったのか?
家族に何が起こったのか?
最後まで真相は明らかにされない。

二人の間に出来た娘が
自傷行為を繰り返し幾度となく入院を繰り返している。
その娘にキチンと向き合うことの出来ない夫婦が、
その現実に耐えられなくなり現実逃避を行いはじめる。
しかし、結局その現実逃避は、一時的なものに過ぎない。
家族とはそのようなものである。
結局、一生付き合っていかなければならない唯一無二の存在。

山内ケンジは、「家族の関係」ということについて深く
考察してみたのかもしれない。
その思考の結果が今回の舞台となって結実している。
そんな気持ちになった。

丁寧な演出が舞台から品の良さみたいなものを立ち昇らせる。
山内さんがNOVAのCMで起用した、
古館寛治が深浦加奈子の夫役である。
また、小浜正寛(ボクデス)と石橋けいも今回の舞台で新しく起用された。
全ての役者のアンサンブルが素晴らしい。
その調和が舞台の品格につながる。

石橋けいのメガネ姿がいい。
山内さんはメガネをかけた美人の役が好きである。
濃厚なキスシーンはそのシチュエーションと
合わせてドキドキするシーンだった。

1950年代の日本映画の黄金時代に作られた
愛憎たっぷりのプログラムピクチャーを彷彿とさせる。
そこに現代的なエピソードや要素が盛り込まれるのだが、
読後感としては、そのころの良質な
日本映画を見ているような印象がある。

ラストのシャープな暗転が格好いい!


2月11日まで下北沢駅前劇場にて!
日曜日の夜の回(19:30〜)はまだチケットに余裕があるらしい。
問い合わせは「[城山羊の会]http://e-pin.jp/shiroyagi/top.html」へ。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

2008/02/02 - 01:45

「明日の広告」佐藤尚之(@アスキー新書) 仕事の周辺



副題は、変化した消費者とコミュニケーションする方法。
佐藤尚之さんはインタラクティブコミュニケーションの世界で
有名な方である。
別名「さとなお」というペンネームで
面白いエッセイをたくさん書かれている。
「うまひゃひゃさぬきうどん」の面白さには本当にたまげた。
彼の主宰している。「さとなお.COM」は僕の愛読のブログである。
また、おいしい店リストもそのHPに併設されており
読んでいるだけで面白い。
その佐藤さんが、本業である広告の本を書いた。

ここで、佐藤さんはコミュニケーションデザイン
ということについて熱く語っている。
コミュニケーションデザインとは消費者の視線に立って
考えると自ずと見えてくる道筋を示してあげることだと佐藤さんは語る。
この本では「消費者」というワードを敢えて使われているのだが、
実際は「生活者」などと言うほうがぴったり来るのかも知れない。
そのことは、以前伺った、佐藤さん自身の講義の中でも語られていた。
「消費者」はこの広告に何を求めているのか?
どのように広告に接触するのが適切なのか?
表現を具体的に考える前に、まずこのことを考える。
まるで「生活者」を考える哲学みたいなことなのか?

「消費者」のライフスタイルが変わっているのに
広告が旧態依然としたキャンペーンを繰り返していても仕方がない。
彼らに合わせたキャンペーンの仕組みを考えていくのが
佐藤さんの言うコミュニケーションデザインの考え方である。

佐藤さんが衝撃を受けた過去のCMについて記述しているところがある。
サントリーローヤルの「ランボー」のCM。
砂漠のようなところで大道芸人のような男たちが
マーク・ゴールデンバーグの奇妙な音楽に合わせて芸を披露している。

ええええ!僕と同じだ!

と思った。
佐藤さんと同世代の僕は
大学3年生のときにこのCMに出会った。
そして広告業界を目指した。

また佐藤さんはこのようなことも語っている。
ネットを利用して個人の発信を始めてから、表現欲が満たされると、
CMの表現などで自己実現しようというような考え方はなくなり、
消費者に伝わる表現を作ることが最優先になった、と。

井上雄彦の「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」の下りは
何度聞いても感動的である。
「映像テクノアカデミア」の講座で聴き。
その後、番組になったDVDを購入し。
今回、本書で改めてことの顛末を読む。
毎回、感動と熱意が伝わってくる。
手間がかかってなかなか利益にならないものが、
人々の気持ちに深く届く、
そして最終的には、大きなキャンペーンになっていくという
幸福な事例である。

そこには感動がなければならない。
人の気持ちを動かすものを作らなければ人のココロには届かない。
というシンプルな真理がある。


投稿者 山下 治城 | この記事のURL | コメント()

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